ホンジュラス関係 今朝の毎日新聞の記事です。
［テグシガルパで庭田学、写真も］
中米ホンジュラスのクーデターによる政治危機は、追放された左派、セラヤ大統領と暫定政権の交渉が
難航し、混迷を深めている。背景には左右両派の政治対立がある。セラヤ氏はベネズエラの急進左派、
チャベス大統領の全面的な支援を受ける一方、暫定政権側は同大統領を諸悪の根源のように嫌っている。
チャベス大統領の存在を軸に、双方の溝は埋まりそうにもない。
根強い反共世論
「チャベスの子飼い」「共産主義者は出て行け」「チャベスは死んだ」――。今月初め、ホンジュラスの
首都テグシガルパの大統領府前で行われた暫定政権支持者の大集会では、セラヤ氏とその盟友であるベネ
ズエラのチャベス大統領に対し激しい非難が渦巻いた。
キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長やボリビアの左派、モラレス大統領らを揶揄するプラ
カードも目立つ。国外追放されたセラヤ氏のインタビューを流す米CNNテレビに対しても、その頭文字から
「チャベス・ニュース・ネットワーク」と批判の矛先が向けられていた。
「共産主義は嫌い。民主主義と自由がいいに決まっている。チャベスはセラヤを支援し、ホンジュラスに
悪影響をもたらした」と集会に参加した小学校教師のマリベルさん(57)は言う。主婦のクラウディアさん(39)
は「ホンジュラスはベネズエラではない。チャベスはホンジュラスに手を出さないでほしい」と話し、
暫定政権発足はクーデターではないと訴えた。
セラヤ大統領は6月28日早朝、軍に連行され、近隣のコスタリカに追放された。同日にミチェレッティ
国会議長が暫定大統領に昇格、政権を奪取した。このクーデターの根底には、ベネズエラやキューバなど
の左派国に急接近したセラヤ政権に対する右派勢力の不満があった。伝統的に右派勢力が強いホンジュラス
では、セラヤ氏追い落としを望む声が昨年から出ていた。
「改憲」問う前に
クーデターは、大統領再選を可能にする改憲について是非を問う国民投票形式の「調査」をセラヤ政権が
強行しようとした当日に起きた。外交筋によると、セラヤ氏を批判するカトリック教会幹部は「調査は事前
に結果が作られており、直後に大統領が国会を閉鎖するシナリオが準備されていた。ベネズエラ化という
差し迫った危険があった」と指摘した。
ベネズエラなど中南米の左派政権は、相次ぐ改憲により大統領連続再選を可能にしてきた。ミチェレッティ
暫定大統領は「(セラヤ氏が)同じことをしようとしたことは疑いがない。何回も大統領になるつもりだった」
と会見で語気を強めた。
周辺国巻き込み
クーデター直後、チャベス大統領は軍に警戒態勢を取らせ、セラヤ氏の大統領復帰のためホンジュラス進攻
をほのめかした。今月5日にセラヤ氏がホンジュラス帰国を図った際などの航空機はベネズエラが提供。
ミチェレッティ氏は「セラヤ氏はチャベスに操られている」と発言するなど、ベネズエラを目の敵にしている。
AP通信によると、暫定政権は21日、ベネズエラの外交官を72時間以内に退去させると通告。ベネズエラは
22日、暫定政権を無視して応じない姿勢を示した。ホンジュラスの政治危機は、中南米の左右両派の政治対立
という構図になっている。
写真 暫定政権支持者の集会では、キューバのカストロ前議長やベネズエラのチャベス大統領を批判する
プラカードも
セラヤ大統領
ベネズエラに急接近
国外追放されたセラヤ大統領＝写真＝は、06年1月に就任。来年1月の任期切れを前にしたクーデターだった。
右派の自由党に所属し、当初は左派とは縁がないとみられていた。
しかし、就任4ｶ月後の06年5月、ウィーンでベネズエラのチャベス大統領と会談し、同国から石油を購入する
方針を表明。親米右派が伝統のホンジュラスでは、反米左派のチャベス大統領への接近姿勢が波紋を広げた。
07年12月には、チャベス大統領が主導するカリブ海諸国への石油供給機構「ペトロカリベ」に加入。そして
セラヤ大統領の「左傾化」が決定的になったのは、昨年8月、キューバ、ベネズエラ、ボリビアなど左派政権
中心の「米州ボリバル代替統合構想(ALBA)」に加盟したことだ。
加盟式典の演説でセラヤ大統領は「この40年間で社会構造変革や経済発展があったら、今の『南の社会主義』
はなかった」と中南米左派諸国を支持し、左派指導者への変身を印象付けた。
セラヤ氏の左傾化は、高騰した石油を購入するうえでベネズエラに接近した方が得策だと判断したから、
との指摘がある。自由党内の主流である保守派との亀裂ができる一方、ロダス外相やフロレス大統領府相
など「左派思想」のある側近が、セラヤ氏の左傾化を後押ししたとも言われる。
ホンジュラスでの世論調査によると、41％がクーデターを支持し、28％が不支持と回答。31％は「わからない」
「無回答」としている。［庭田学］
