33人 全員救出
読売新聞夕刊一面の記事です。
リーダー最後に生還「チームみんなが誇り」
[コピアポ=浜砂雅一] 33人の作業員の「最後の1人」として救出されたルイス・ウルスアさんは、カプセルから69日ぶりの地上に
ゆっくりと一歩を踏み出した。地底生活で弱った目を保護するための黒いサングラスをかけ、汗ばんだ顔に笑みを浮かべながら、
歩み寄った息子と固く抱き合った。
出迎えたピニェラ大統領が「素晴らしいチームリーダーだった」とたたえると、ウルスアさんは「救助隊員に感謝します。
チームのみんなを誇りに思います」と語った。首にチリ国旗を巻いたウルスアさんを囲んで、鉱山の男たちが歌う野太いチリ国歌が
現場に響いた。
作業員ダニエル・エレラさん(37)の母、アリシア・カンポスさん(57)は「みんな尊敬している。彼なしでは救出作戦はできなかった
かもしれない」と話した。地元メディアは「コピアポの英雄」とたたえた。
地元紙によると、ウルスアさんは少年時代、当時の軍事政権に父を殺され、6人兄弟の長男として一家の中心になったという。
現地を視察した米航空宇宙局(NASA)の専門家はウルスアさんを「生まれながらのリーダー」と評価した。
ウルスアさんは8月5日の落盤事故で閉じ込められてから同22日に生存確認されるまでの17日間、避難所に備蓄されていた数日分の
食料や牛乳の配分を決め、全員の生存につなげた最大の功労者。48時間ごとに「スプーン2杯分のツナ、ミルク1口、ビスケット1枚」で
つなぐ配給を決め、坑内のトンネルを寝室や食堂などに区切り、集団生活の規律を確立した。
22時間で完了 チリ 健康ほぼ問題なし
[コピアポ=佐々木良寿、浜砂雅一] チリ北部コピアポ近郊のサンホセ鉱山落盤事故で、地下に閉じ込められた作業員33人をカプセルで
引き上げる救出作業は、13日午後9時55分(日本時間14日午前9時55分)ごろ、最後の33人目の作業員を無事引き上げた。8月5日の事故
発生後、地下700メートルで過ごしていた作業員全員が69日ぶりに帰還した。世界の事故史上、例のない「奇跡の救出」は最短36時間と
いう当初の見通しを大幅に短縮し、救出作業開始から約22時間半で完了した。〈関連記事2・12・13面〉
ピニェラ大統領は全員帰還に「生涯忘れられない夜になる」と喜びを語った。
最後に引き上げられたのは鉱山作業員歴31年のベテランで、事故当時の現場監督ルイス・ウルスアさん(54)。
過酷な地下生活をリーダーとして統率し、救出でも「最後の1人」を任された。
ウルスアさんを乗せたカプセル「フェニックス(不死鳥)」が地上に姿を現すと現場付近にはサイレンが鳴り響き、夜の闇に包まれた
砂漠の鉱山に大歓声と国歌がこだました。ウルスアさんはピニェラ大統領や作業員らと肩を抱き合い、大統領に「二度とこのような
ことが起こらないことを願います。チリの皆さんに感謝します」と語った。
12日深夜(日本時間13日午前)に始まった作業員の救出作業は、健康に不安のある約10人に続いて、13日夕には体力の残っている最終
グループに移り、ペースが加速した。救助隊員の増援で乗り込み作業も迅速化し、1人の引き上げに要する時間は当初の約1時間から
約25分に短縮された。作業員の全員救出に続き、地下にいる救助隊員6人の引き上げも始まった。
救出された作業員は、鉱山の臨時診療所で健康診断を受け、数時間休養した後、空軍ヘリで約50キロ離れたコピアポ病院に搬送
された。
13日夕、同病院を訪れたマニャリク保健相は「作業員の健康状態はおおむね、予想以上に良好だ」と述べる一方、1人が急性肺炎を
発症し、歯の感染症のため全身麻酔による抜歯が必要な作業員が2人いることを明らかにした。
菅首相は14日午前、チリ北部コピアポ近郊のサンホセ鉱山の落盤事故で閉じ込められた33人全員が救出されたのを受け、外交ルート
を通じ、ピニェラ大統領に「喜びを共にする」と祝意を伝えた。
よみうり寸評
〈33〉- 世界中が知っている数字になった。映画化も予定され、そのタイトルがこれとも伝えられる◆チリの鉱山落盤事故で地底に
いた作業員の救出はピッチを上げ、カプセル〈フェニックス (不死鳥) 〉が、その名のように33人全員を次々に地上へ運んだ◆当初は
1人当たり1時間ほどのペースだったが、30分を切るまでになった。映画化のプランは気が早いとも思うが、それほどにこのドラマは
迫力十分。シナリオに盛り込むには手に余るほど中身は山盛りでしかも意味深い◆第1部が事故の発生から生存確認までの17日間。
恐怖と不安の日々だ。第2部がそれから救出まで。2部作か3部作にでもしなければならないほどだ◆危機に直面した時の人間の力に感動
する。リーダーの指導力、33人が役割を分担し、協力しあった結束力……。地上の救出作戦の展開も描かなければなるまい。〈33〉の
映画化に期待しよう。◆命の尊さ、人間の強さ、家族の優しさ、人と人との絆の大切さなどを存分に描いてくれることだろう。