JICA経験 還元 読売新聞朝刊記事の紹介です。
経済全国便
国際協力機構(JICA)で貴重な海外経験を積んだ人たちが、帰国後も各地で活躍している。苦労が絶えない異国の地で、現地人との
触れあいなどを通じて大きく成長した人も多い。最近の若者は「内向き志向」が強いとも言われるが、JICAのOBから学ぶことは多い
はずだ。
ホテル 海外から誘客 白馬村
長野県白馬村八方の「白馬山のホテル」の支配人、武藤慶太さん(38)は2002年12月、スキージャンプのコーチとしてルーマニアに
派遣された。ルシュノフという人口1万5000人ほどの町で2年間、子どもたちを指導した。
小学生からジャンプを始め、大学でもスキー部に所属。派遣の話があったのは、外資系商社を退社し、父が白馬に造ったこのホテル
で働いていた時だった。ルーマニアでは、ジャンプ台は手作り同然。道具をそろえるのも大変だった。しかし、「田舎町のシンプルな
生活で、助け合いの精神を学んだ」という。
帰国後はホテルの支配人に。白馬でもスキー人気の陰りが見え始めていた。そこで仲間の経営者らと、豪州やロンドンで開催された
旅行業界の商談会に参加し、海外からの誘客に力を入れた。海外経験は、「外国人が日本に求めているものが分る」点で貴重な財産だ
という。
現在のホテルの利用客の多くは、豪州などの外国人客だ。「世界を相手に街全体の観光客を増やしたい」と、目線は世界に向いて
いる。 (長野支局 香取直武)
「食料大事に」雑草活用 井原市
岡山県井原市の農業、塩飽(しわく)康利さん(50)は、1986〜88年にエチオピアで農業用水路などの整備に携わった。自分の食料に
さえ困るほどで、農業の大切さを痛感した。帰国後は地元で若手農家と協力し、農産物の加工品作りや農地の保全などに取り組んで
いる。
だが、地元の農村も、農家の高齢化と農地の荒廃が進む。「このまま国内農業が衰退すれば、国際貢献どころではない」との危機感
を抱いた。
使われなくなった周辺農地を借りてはいるが、耕作面積は1.7ヘクタール。「大規模化は無理。手間暇かけた本来の農業を目指す」と
いう。
コメのほか、ブドウ、栗などを栽培している。加えて、雑草のスギナの粉末を混ぜたまんじゅうを開発するなど、雑草を食材に加え
ることで「世界の食糧問題を少しでも和らげたい」という。現在は、放置すれば農地を覆い尽くす葛を刈って、葛を使った餅やお茶を
開発中だ。
農作業は無理でも元気なお年寄りに、雑草や葛を集める軽作業を任せる「分業」で、農業の再生を目指す。(大阪経済部 岸本英樹)
土地のものでワイン、梅酒 都農町
都農(つの)ワイン(宮崎県都農町)で工場長を務める小畑暁(さとる)さん(53)は北海道出身。地元の畜産大学大学院を修了する際、
教官の勧めで青年海外協力隊に応募し、1985年、南米ボリビアに渡った。派遣先の農場は雑草が茂り、電気も水道もなかったが、豊富
にあったかんきつ類でジャム作りを始めた。2年の任期を1年延長し、ジャム作りが軌道に乗ったのを見極めて帰国した。
南米への思いは深まった。「将来、ブラジルで勤務できる者」という採用条件にひかれて熊本市の飲料メーカーに就職。92年、ブラ
ジル現地法人のワイン工場に支配人として赴任。ブラジルのコンテストで1位に輝くなど実績を積んだ。
帰国後、96年に知人の紹介で都農ワインに転じ、「世界に通用するワインを造る」と心に決めた。地元農家の協力で土壌改良などを
重ね、主に生食用のブドウ品種のキャンベル・アーリーを使った赤ワインは2003年、有名なワインガイドの「世界のワイン百選」に
選ばれた。最近はワイン以外にも、梅酒や焼酎づくりにも取り組む。「その土地でできるものを生かして商品を作りたい。協力隊の
血が騒ぐんです」 (西部経済部 佐々木鮎彦)