埋もれた町 届かぬ光 チリ大地震1週間 東京新聞の記事です。
「役人は新政権まで働く気ない」
[コンスティトゥシオン(チリ中部)=嶋田昭浩] チリ大地震の発生から六日で一週間を迎えた。
震源に最も近く、津波にのまれ、約三百五十人が死亡したとされる中部コンスティトゥシオン
では五日、重機による本格的ながれきの除去が始まった。だが、海岸近くの住宅地一帯は土砂
に埋もれたまま。政治の対応の遅れを非難する声が上がっていた。
銃撃戦
コンスティトゥシオンには、軍の兵士約三百五十人が展開、警戒に当たる。それでも「三日夜
には兵士の武器を奪おうとした犯罪者グループと撃ち合いになり、二人を射殺した」と現場の
下士官(22)が明かす。
海沿いの住宅街は、数十軒の家屋が跡形もなく押し流され、台所のオーブンなどが地面に転がる。
こんな惨状の中でも略奪が横行した。「助け合うのではなく、遺体を踏み越えて盗みをしている。
人間の尊厳はどこへ行ったんだ」と会社員のウーゴさん(58)は声を詰まらせた。
住民は、一九九〇年までの独裁者、ピノチェト軍政下の不快な記憶を抱き続けるが、今回は
「治安を回復してくれた」と軍を歓迎する。
テント
「地震の直後、北と南から来た大きな波がぶつかり合って、水が高く噴き上がった。浜の家が流さ
れていくのを目撃した。三、四人の遺体が浮いているのも見た」と話す漁師のアレックスさん(37)
は、津波に家を押しつぶされた。だが、残ったボートや道具が盗まれるのを恐れ、妻子を親類宅に
預けたまま、弟と自宅跡でテント暮らしを続ける。
ちょうど到着した救援トラックからスイカを受け取り、「おとといまではテントもなく地面に寝て
いた。こんな生活が二ヵ月ぐらい続くだろう。でも『早く国民に仕事を与えてくれ』と政府に言い
たい」と力を込める。
愛国心
周りを見回すと、がれきのあちらこちらで棒きれに付けられたチリ国旗がはためく。被災者が立て
たものだ。「みんな愛国者になった」とトラック運転手のパブロさん(53)。救援活動の主体は
ボランティアで、当局の動きは鈍かったという。
「小さな袋に食料や水の入った政府の救援物資がようやく届いたのは四日。それまでは個人の
篤志家が食料を運んで来てくれた。バチェレ大統領は国民の生活を気にしているけど、役人たちは
(今月十一日にピニェラ)新政権ができるまで働かないんだ」とぼやくパブロさん。
高さ約1.5?まで泥水の跡が壁につき、水道も電気も止まったままの自宅の居間から、スコップで
泥を運び出し、「元の生活に戻るには最低一年はかかるね」と話した。